患者様からよく、
「腰が痛いのに、なぜ股関節を見るんですか?」
「痛い場所は腰なのに、股関節が関係あるんですか?」
と聞かれることがあります。
結論から言うと、腰痛は腰だけで起きているとは限りません。
もちろん、椎間板、椎間関節、筋肉、靭帯、神経など、腰そのものに問題がある場合もあります。
ただ、臨床で多いのは、腰だけでなく、骨盤、股関節、体幹、膝、足首の動きがつながって影響しているケースです。
特に重要なのが股関節です。
股関節は、骨盤と太ももの骨をつなぐ大きな関節で、歩く、立ち上がる、しゃがむ、階段を上る、前かがみになる、体をひねるといった動作に深く関わります。
本来、股関節がしっかり動くことで、骨盤や腰にかかる負担は分散されます。
ところが股関節の動きが悪くなると、本来股関節で受けるはずの動きを、腰が代わりに補おうとします。
たとえば、股関節が曲がりにくい人が前かがみになると、股関節ではなく腰を丸めて動こうとしやすくなります。
股関節の伸びが悪い人は、歩くときに骨盤がうまく動かず、腰を反らせて代償することがあります。
股関節の内旋、つまり内側にひねる動きが硬い人では、体を回すときに腰を余計にひねってしまうこともあります。

こうした動きが積み重なると、腰の筋肉、椎間関節、椎間板まわりに負担が集まりやすくなります。
これはプロゴルファーの中嶋常幸さんのスイング論でも、腰だけをねじるのではなく、骨盤や股関節を使って体を大きく動かすことの重要性が語られています。
ゴルフスイングで腰だけを無理に回そうとすると、腰椎にねじれの負担が集中しやすくなります。
でも、股関節がスムーズに動き、骨盤が連動して動くと、体幹全体で回旋を分散しやすくなります。
これはゴルフだけの話ではありません。
日常生活でも同じです。
椅子から立ち上がる。
床の物を拾う。
靴下を履く。
掃除機をかける。
車から降りる。
振り向く。
こうした何気ない動作でも、股関節が使えていないと、腰に動きのしわ寄せが来ます。
医学的にも、腰と股関節の関係は「ヒップ・スパイン」、つまり股関節と脊柱の連動として考えられています。
特に変形性股関節症の方では、腰痛を合併することが少なくありません。
また、股関節の可動域と非特異的腰痛の関連を調べた研究では、エビデンスの質には注意が必要ですが、股関節の内旋制限が腰痛と関連する可能性も示されています。
ここで大切なのは、
「股関節が硬いから必ず腰痛になる」
という単純な話ではないことです。
腰痛は、画像所見、筋力、姿勢、動作、睡眠、ストレス、神経の過敏さなど、複数の要因が重なって起こります。
ただ、その中で股関節の動きが悪いと、腰に負担が集まりやすくなる可能性がある。
この視点が重要です。
特に見直したいのは、
❶ 長時間座りっぱなしで股関節の前側が硬い
❷ 歩く量が少なく股関節を大きく動かしていない
❸ 反り腰や猫背で骨盤の位置が崩れている
❹ 前かがみ動作を腰だけで行っている
❺ 体をひねるときに股関節ではなく腰だけを使っている
このような状態です。
腰痛があると、つい痛い腰ばかりを揉んだり伸ばしたりしたくなります。
でも、腰だけを見ていても変わりにくい場合、股関節や骨盤の動きを見直すことで、腰への負担のかかり方が変わることがあります。
大切なのは、腰を無理に動かすことではありません。
股関節を安全な範囲で動かす。
骨盤の動きを取り戻す。
歩く量を少し増やす。
前かがみや立ち上がりの動作を見直す。
腰に負担が集中しない体の使い方を覚える。
こうした積み重ねです。
腰痛を考えるときは、痛い場所だけを見ないこと。
腰は、股関節、骨盤、体幹とつながっています。
だからこそ、腰の痛みを改善したいなら、腰だけでなく、股関節の動きも一度見直してみてください。