スマホが脳に与える悪影響とは?

「スマホを見る時間が長いと、脳に悪いんですか?」

患者様から、こう聞かれることがあります。

結論から言うと、スマホそのものが脳を壊すわけではありません。

本当に問題になるのは、スマホを使いすぎることで、脳の休息、睡眠、感情、集中力、自律神経のリズムが乱れやすくなることなんですよね。

特に影響を受けやすいのが、前頭前野です。

前頭前野は、簡単に言えば「脳の司令塔」のような場所です。集中する、判断する、感情を抑える、やるべきことを選ぶ。

こうした働きを担っています。

ところがスマホは、通知、SNS、動画、ニュース、メッセージなど、次々に脳へ刺激を入れてきます。

そのたびに前頭前野は反応し、注意を切り替え、情報を処理しようとするわけです。

つまり、スマホを長時間見ていると、ただ画面を眺めているだけのようで、脳の司令塔はずっと小刻みに働かされているということです。

その状態が続くと、集中しにくくなったり、物忘れが増えたり、ちょっとしたことでイライラしやすくなることがあります。

何もしていないのに頭が疲れるという方も、脳が休めていないのかもしれません。

そしてもう一つ大きいのが、ドーパミンです。

ドーパミンは、やる気や快感、報酬に関わる神経伝達物質です。

本来は、目標に向かって行動する、達成感を得る、新しいことを学ぶといった場面で大切に働いてくれます。

ただ、ショート動画やSNSのように、次々と新しい刺激が入るものは、脳に小さな報酬を連続で与えます。

面白い動画が出る。いいねがつく。新しい通知が来る。

そのたびに脳は「次も何かあるかもしれない」と期待するようになります。

その結果、スマホを置いたあとも、なんとなく落ち着かない。

無意識にまた画面を見てしまう。

やるべきことがあるのに、ついスマホに手が伸びる。

こういうことが起こりやすくなるんですね。

これは意志が弱いという話ではありません。

脳の報酬系が、スマホの刺激に引っぱられているという見方ができます。

さらに、感情に関係する扁桃体にも影響します。

扁桃体は、恐怖、不安、怒り、危険の判断に関わる場所です。

夜に不安をあおるニュースを見たり、SNSで人と比べて落ち込んだり、コメントや投稿に感情を揺さぶられたりすると、扁桃体が反応しやすくなります。

そうなると、体は布団に入っているのに、脳はまだ危険を探しているような状態になります。

これでは、深く休む準備に入りにくいんです。

ここで関わってくるのが、視床下部とメラトニンです。

視床下部は、自律神経、体温、睡眠、食欲、ホルモンのリズムに関わる脳の中枢です。

その中でも体内時計に関わる部分は、光の影響を強く受けます。

夜にスマホの明るい画面を見続けると、脳は「まだ昼なのかな」と勘違いしやすくなります。

すると、眠りを促すメラトニンというホルモンの分泌が乱れやすくなると言われています。

寝つきが悪い。眠りが浅い。夜中に目が覚める。朝起きても疲れが抜けない。

こうした状態は、単なる気合い不足ではなく、脳の睡眠リズムが乱れているサインかもしれません。

睡眠が乱れると、セロトニンにも影響します。

セロトニンは、不安をやわらげ、気分を安定させ、痛みの感じ方にも関係する神経伝達物質です。

朝の光を浴びること、日中に体を動かすこと、規則的な生活リズムは、セロトニンの働きを支える大切な要素になります。

ところが、夜遅くまでスマホを見て睡眠が乱れ、朝起きるのがつらくなり、日中の活動量まで落ちると、脳の安心を支えるリズムも崩れやすくなります。

その結果、不安が抜けにくくなったり、気分が沈みやすくなったり、痛みや不調を強く感じやすくなることもあるんです。

もちろん、スマホを使ったからすぐに脳が悪くなる、という単純な話ではありません。

スマホは、連絡、仕事、学び、健康情報、家族とのつながりにも役立つ便利な道具です。

問題は、スマホを使っているつもりが、いつの間にか脳の司令塔、感情のセンサー、睡眠のリズム、報酬系まで振り回されてしまうことではないでしょうか。

しかも影響は脳だけにとどまりません。

うつむいて画面を見る時間が長くなると、頭が前に出ます。

すると首や肩の筋肉に負担がかかり、猫背や巻き肩にもつながります。

猫背になり、巻き肩になると、胸郭が狭くなります。

胸郭が狭くなると肺が広がりにくくなり、呼吸も浅くなりやすいんですよね。

呼吸が浅くなると、自律神経はさらに落ち着きにくくなります。

つまりスマホの問題は、目や脳だけではなく、首、肩、呼吸、睡眠、自律神経までつながっているということです。

だからこそ、スマホ対策は「根性でやめる」ではなく、脳と神経が休める環境を作ることが大切になります。

寝る前の30分だけでも、スマホを手の届かない場所に置いてみる。朝起きたら、スマホを開く前にカーテンを開けて、まずは目から朝の光を入れてあげる。

通知も全部受け取るのではなく、本当に必要なものだけに絞ってみると、脳が反応し続ける回数を減らしやすくなります。

長く画面を見たあとは、首を少し起こして、ゆっくり息を吐いてみてください。

たったそれだけでも、前のめりになっていた姿勢が戻り、浅くなっていた呼吸に気づきやすくなります。

大げさなことをする必要はありません。

脳は、静かな時間がないと回復しにくくなります。

前頭前野を休ませる時間、扁桃体を落ち着かせる時間、セロトニンやメラトニンのリズムを取り戻す時間。

そういう余白を、1日の中に少しずつ戻してあげることが大切なんです。

スマホが悪いのではありません。

脳が休む時間まで、スマホに明け渡してしまうことが問題なんです。

スマホとの距離を整えることは、現代人にとって立派なセルフケアです。

脳が落ち着くと、呼吸も、睡眠も、痛みの感じ方も、少しずつ変わっていく可能性があります。

まずは今夜、寝る前の30分だけ。

脳に静かな時間を返してあげてください。

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